-　ちょっと言いたくなる京都通　-　12/16号　【伊藤久右衛門】

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ご愛読誠にありがとうございます。
伊藤久右衛門の野上です。

京都の街に吹く風は日増しに冷たくなり、
「師走」という字の通りに、皆、年末年始の準備に忙しそうです。

この時期になると毎年、お茶屋の店頭に並び始める
「大福茶（おおぶくちゃ）」。

このお茶は、梅干しや結び昆布が入った、お正月のお祝い茶です。

平安時代、疫病が流行した際に、
梅干しの入ったお茶が沈静に一役を担ったことから、
吉運をもたらすお茶として、家内安全・無病息災を願い、
飲まれてきました。

お正月には一年の無事を祈りながら、
家族みんなでゆっくりお茶を飲んではいかがでしょうか。

今回は、そんな『千本釈迦堂』の魅力をご紹介していきます。

北野天満宮のほど近く、西陣の民家に囲まれるように建つ千本釈迦堂は、庶民のお寺として厚く信仰されています。

正式名称は大報恩寺（だいほうおんじ）。

創建は今からおよそ800年前の鎌倉初期。

安貞元年（1227年）に、藤原秀衡の孫にあたる名僧・義空（ぎくう）上人によって創建されました。

千本釈迦堂の名称は七百数十年前から呼ばれているもので、兼好法師の「徒然草」にもこの名が記されています。

山門から入って正面にある本堂（釈迦堂）は、創建当時そのままの姿を今に伝えています。

応仁の乱などの大火で焼失することなく、奇跡的に残ったこの本堂は、京都市内に現存する最古の木造建築として国宝に指定されています。

檜皮葺き（ひわだぶき）に和風の書院造り。

内陣と外陣（げじん）に区切られた内部は、庶民的な信仰が集まってきたことを表しており、鎌倉時代初期の代表的な造りであることがわかります。

また、民家が密集する場所ということもあり、建物内部に水道管をめぐらせるといった最新の防災設備が整えられています。

その本堂ですが、中に入ってみると大変広く、とりわけ大きな柱が存在感を放っています。

その柱には多くの刀や槍の傷跡が見られます。

応仁の乱では、西軍がこの辺りに陣を張り、千本釈迦堂を本営としました。

柱や壁に刻まれた無数の傷跡は応仁の乱で戦った兵士が残したものなのです。

内陣にはご本尊の「釈迦如来」が祀られています。

これは快慶の弟子・行快の作で、重要文化財に指定されています。

普段は秘仏として姿を見ることはできませんが、年に4度、大きな行事の際に御開帳されます。

釈迦如来が祀られた、千本通り近くにあるお寺ということで、「千本釈迦堂」と呼ばれるようになったのですね。

千本釈迦堂といえば、「おかめ」についての悲話に触れないわけにはいきません。

鎌倉時代、本堂を造営しているときです。

大工の棟梁・長井飛騨守高次は、信徒から寄進された大事な心柱の1本をうっかり短く切ってしまいました。

途方に暮れていた夫を見かね、妻のおかめ（阿亀）がある助言をしました。

4本すべての柱を短く切り、頂上部に柱を継ぎ足して長さを補えばいいのではないかと。

この画期的な着想によって本堂は無事完成し、高次は大任を果たすことができました。

しかし、当時は男性中心の社会です。

おかめは、女が夫の仕事に口を出したこと、そして女の口添えで完成したことが世間に知れては夫の名声に傷が付くと考え、すべてを秘密にするため、上棟式前日に自ら命を絶ったのです。

高次は妻の心情にうたれ、上棟式当日、御幣の先におかめの名にちなんだ福面を飾り、妻の冥福を祈りました。

この言い伝えから、大工の信仰を集め、現代でも上棟式には御幣におかめの面を付けて建築成就を祈るようになりました。

また、夫婦円満や良縁、子授けのご利益があると今に伝わっています。

本堂前には、おかめの菩提を弔うために「おかめ塚」と呼ばれる大きな宝篋印塔（ほうきょういんとう）が建てられ、横には「おかめ像」も置かれています。

本堂の廊下には全国から奉納された数々のおかめ人形が飾られています。

ちなみに、建物の屋根を見るとおかめの瓦が使われているところもあるので、ぜひ探してみてください。

多くの福を呼び込むということで「お多福」とも呼ばれるおかめ。

その顔には5つの徳があるとされ、夫婦円満の秘訣が込められています。

広く前に出たおでこは自分のおごりの高さを戒めるように。

垂れ下がった目尻はとにかく何があってもまずは笑うように。

右頬は父親、左頬は母親を表し、その真ん中にある低い鼻が自分自身。

そこから両親を大切にする気持ちを持つように。

そして、おちょぼ口は、口災いの元だから封じるように…と思いがちですが、実はそうではありません。

心の内をすべて正直に話し、隠し事をしないように、ということなのです。

千本釈迦堂には、貴重な文化財が数多く残っており、国宝、重要文化財が40件以上あるといわれています。

本堂西側の「霊宝殿」では、その素晴らしい寺宝の数々が公開されています。

貞応3年(1224年)の銘があり、定慶の作とされている六体の「六観音像」、建保6年(1218年)の年号があり快慶晩年の作とされている十体の「十大弟子像」（釈迦に従う十人の弟子の像）は特に圧巻。

整然と並んだ姿には思わずため息をもらしてしまうでしょう。

すべてが欠けることなく保存されているのは大変珍しいことで、いずれも重要文化財に指定されています。

そして、直径2メートルほどの巨大な木製の車輪が壁に立てかけてあります。

これは室町幕府三代将軍・足利義満を乗せた牛車の車輪なのだそう。

金閣寺に向かう途中で車輪が破損した際、そのまま近くにあったこの千本釈迦堂に納められたのです。

千本釈迦堂の冬の風物詩として知られるのが厄除けに良いとされる「大根炊き」。

こちらは12月7日8日に行われ、今年はすでに終わってしまったので、これから参加できる行事をひとつご紹介しましょう。

毎年2月3日に行われる「おかめ福節分祭」です。

創建当時から続いている歴史ある行事です。

最初に本堂で、木遣音頭（けやりおんど）が行われます。

これは昔、大工が作業の際に掛け声と同時に歌った歌なのだそう。

続いて、おかめ像の前でおかめ法要が行われ、そして、古式・鬼追いの儀の奉納として狂言が行われます。

鬼が登場し、打ち出の小槌を振り回し大暴れ。

豆まきで鎮めようとしますが、収まりません。

ようやく、おかめに改心させられた鬼は、人を守護する事を誓うのです。

この鬼追いの儀が終わると、一斉に招福豆まきが行われるといった非常に楽しい行事です。

さらに春先には、本堂正面にある「おかめ桜」が、優美な姿で参拝者をお迎えてしてくれることでしょう。

今日もちょっと京都通。

では、次回もよろしくお願いします。

取材協力：千本釈迦堂（大報恩寺）
京都市上京区七本松通今出川上ル
電話番号：（075）461−5973

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