-　ちょっと言いたくなる京都通　-　11/16号　【伊藤久右衛門】

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ご愛読誠にありがとうございます。
伊藤久右衛門の野上です。

さて、11月中旬ともなるとぐっと冷え込み、徐々に樹々が色づき始めました。

京都には、「三千院」や「嵐山」など、紅葉が楽しめる有名どころがたくさんあります。

京都大原の一際奥まったところにある『宝泉院』は、さまざまなお庭を通して、大原の自然が心ゆくまで楽しめます。

紅葉の時期になるとライトアップもされるので、また一味違った幻想的な風景も堪能できます。

今回は、そんな『宝泉院』の魅力をご紹介していきます。

京都の街中を離れ、滋賀に抜ける山道の途中にある大原。

緑の山々や田園に囲まれた、まさに日本の原風景が広がるこの地は、「大原談義」や「大原問答」など仏教上の議論の場として有名で、「梵唄声明（ぼんばいしょうみょう）」のふる里としても知られています。

梵唄声明とは、経典などに旋律を付けて独特の節回しで唱えるという宗教音楽。

平安時代初めに中国から日本に伝わり、その後は日本仏教の各宗派に伝えられ、謡曲や長唄などのルーツになったといわれています。

日本の伝統音楽に多大な影響を与えたその声明の中心的道場、それが三千院の参道奥にある勝林院（大原寺）だったのです。

今回ご紹介する宝泉院は、勝林院の住職の住まいとして、約800年前に建てられもの。

現在の建物はその形式から、江戸時代中期の再建と考えられています。

場所は、勝林院を出てすぐ西へ進む細い道をほんの少し歩いたところ。

さわさわと流れる川の音を聴きながら、小さな橋を渡ると山門が見えてきます。

瓦葺の門をくぐると、石畳の小路は二手に分かれています。

真っ直ぐ行くと旧玄関、右手に行くと現在の玄関になります。

旧玄関の前には、法然上人が掛けたと伝わる「法然上人衣掛石」があります。

では、玄関で靴を脱いで中に入ってみましょう。

受付の左手に目を向けると、江戸時代中期に作庭されたという蓬菜山形式の「鶴亀庭園」があります。

池の形を鶴に、築山を亀に見立て、山茶花（さざんか）の古木は仙人の住む蓬莱山を表しています。

中央の池では優雅に泳ぐ錦鯉の姿が見られます。

このお庭は、客殿の格子越しから鑑賞するのが、本来の楽しみ方なのだそうです。

宝泉院の一番の見どころ、それは「盤桓園（ばんかんえん）」と称される額縁庭園です。

柱や鴨居、敷居を長方形の額縁に見立てると、その中には楓や竹林といった自然の織り成す風景が、まるで日本画のごとくきれいに収まって浮かび上がります。

最も美しい景色をご覧になりたいという方は、客殿の奥に座るとよいとのこと。

床の間の前からが最高の眺めになるよう、緻密な計算がされているのです。

ふと耳をすませば、声明がどこからともなく聞こえてきます。

そんな厳かな響きに包まれながら、接待されるお抹茶とお菓子をいただく特別な時間。

機会があれば、住職の法話やお寺の説明などを聞くこともできます。

縁側の傍らには珍しい二連式の水琴窟があり、その心地よい音はさらに私たちを穏やかな気持ちにさせてくれます。

ちなみに、この庭園に付けられた「盤桓園」とは、立ち去りがたい園という意味。

その名のとおり、時が経つのを忘れ、この芸術的な風景を何時間も愛でていらっしゃる方も多いのです。

また、客殿南側のお庭に目をやると、このお寺のシンボルともいえる、それは立派な「五葉の松」に圧倒されます。

近江富士をかたどったというこの松の樹齢は700年。

玄関からもその存在感を確認することができますが、客殿からの眺めは格別の美しさを放っています。

幹がうねりながら天に向かうその雄々しい姿は迫力満点です。

このお庭に映る風景は四季折々、その時々の天候や時間によってもさまざまに印象が変わります。

桜が咲く春や楓が色付く秋には、期間限定でライトアップがされ、四季の間や茶室も特別公開されます。

これからはちょうど紅葉の季節。

日中とはまた違ったお庭の景色を堪能してみてはいかがでしょう。

※特別公開「秋の夜灯り」2013年11月2日〜12月1日

客殿の廊下に立ち、何気なく天井を見上げると、そこには歴史の悲劇を今に伝える「血天井」があります。

よくよく見ると、血の染みが顔や手の形に見受けられます。

関ヶ原合戦の前、慶長5年(1600年)7月のこと。

伏見桃山城で留守を預かっていた徳川家の忠臣・鳥居元忠ら1800人の兵士は、宇喜多秀家ら軍勢に攻め込まれ陥落。

元忠らは城の中で自刃しました。

後、忠義を尽くした元忠らの志や無念を供養するため、血痕の残る床板をここ宝泉院のほか、正伝寺や養源院など徳川家に縁のあるお寺に移したのです。

宝泉院に祀られたのは、勝林院が徳川家の寄進を受けたからだそうです。

少し重い気持ちになってしまいましたが、しばし囲炉裏の部屋で気持ちをほぐすのも素敵なひと時。

大きな窓の向こうには自然の山を生かしたお庭が広がり、心がほぐされていくことでしょう。

また、部屋の入り口には、声明に使う清妙な音を奏でる「サヌカイト」と呼ばれる石盤が置かれています。

これは、宝泉院の住職で、声明の大家であった深達僧正（明治時代）が音律を調べるために愛用した楽器だとか。

境内南側には、8年ほど前に造られた「宝楽園（ほうらくえん）」というお庭があります。

岩組や花木、白砂などを用いて、仏や神の世界が表現されており、珍しい台付花桃をはじめ、彼岸桜や河津桜、楓などが季節ごとに彩ります。

そのほか、サツキやツツジ、シャクナゲ、ミヤマヨメナ（大原小菊）、そして樹齢300年を誇る沙羅双樹など、境内には多くのお花が参拝者の目を楽しませてくれます。

手入れの行き届いた数々のお庭の中で、あなたのお気に入りの場所を見つけてみませんか。

今日もちょっと京都通。

では、次回もよろしくお願いします。

取材協力：宝泉院
京都市左京区大原勝林院町187番地
電話番号：（075）744−2409

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