-　ちょっと言いたくなる京都通　-　11/19号　【伊藤久右衛門】

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ご愛読誠にありがとうございます。伊藤久右衛門の野上です。

朝晩の吐く息が白い近ごろ、
いかがお過ごしでしょうか。

京都の紅葉はそろそろ見ごろを迎えはじめたようです。

ここ宇治にある興聖寺の琴坂も紅葉の名所ですが、
ようやく色づき始めたところ。
見頃予想では11月下旬〜12月上旬とありますが、
そのころには色鮮やかな紅葉のトンネルが見られるはずです。

お近くにお立ち寄りの際はぜひ訪れてくださいませ。

さて、今回の京都通は、「正覚庵」をご紹介します。

東福寺の塔頭のひとつ、正覚庵。

ここは正応3年（1290年）、東福寺五世山叟恵雲（さんそうえうん）を開山として、鎌倉時代の武将で奥州・伊達政宗の先祖である伊達政依によって創建されました。

所蔵する「絹本著色山叟恵雲像（けんぽんちゃくしょくさんそうえうんぞう）」は国の重要文化財に指定されています。

また、ここは「筆の寺」として親しまれています。

あらゆる文化や歴史が今に伝えられているのは、もちろん筆のおかげといえるでしょう。

そんな筆に感謝するべく、古くなった筆を供養する筆塚が境内に多数存在します。

いわゆる筆のお墓です。

中でも一番古い筆塚は、江戸時代後期の文化年間（1804-18年）に建てられたもの。

そのほか、よくこの庵を訪れていたという西山翠嶂さんや、その甥にあたる西山英雄さんといった日本画家の筆塚もあります。

また、一番新しい筆塚は、戦後に始まった筆供養の20周年を記念して、昭和42年（1967年）に建立されました。

こちらには全国から送られてくる古い筆がたくさん納められています。

ちなみに、筆塚自体は中国の隋の時代に、智永（ちえい）禅師という書家としても活躍した僧が、自身の使い古した筆を納めたのが始まりといわれています。

正覚庵では30年ほど前から、毎月第1日曜に写経を行っています。

事前の申し込みは不要で、当日どなたでもご参加いただけます。

ただし、筆と墨は各自ご持参いただくことになっています。

この秋、お寺で写経体験というのもいいかもしれませんね。

境内には「威徳堂（いとくどう）」というお堂があり、そこには「渡宋大自在威徳天神（とそうだいじざいいとくてんじん）」が祀られています。

また、威徳堂の堂内には巨大な筆が祀られています。

かなり重い筆なので、墨を付けて書くことはもとより、持つことさえ困難でしょう。

この渡宋大自在威徳天神とは“天神さん”、つまり藤原道真公のことです。

渡宋大自在威徳天神は中国の宗に渡った天神さんという意味で、そこにはこんなお話が言い伝えられています。

今から約750年前、東福寺を開山した聖一国師（しょういちこくし）が、中国の宗で修行を終え、今の九州博多にあるに崇福寺に戻って来られました。

一方、ある長者の夢枕に天神さんが出て来られて、「お坊さん１０００人で供養してください」とおっしゃいました。

その夢のお告げに従って、お坊さんを１０００人集めて供養しましたが、翌日、天神さんが再び出てこられ、「供養をしてもらったけど、だめだった」とおっしゃいます。

さらには、「中国で修行された立派なお坊さんに供養を頼んでほしい」と言われ、その長者は聖一国師に供養を頼みました。

すると、天神さんは大いに喜ばれ、「自分を弟子にしてほしい」とおっしゃいました。

聖一国師は、「私には中国に仏観禅師（ぶっかんぜんじ）という師匠がいるので、弟子にするわけにはいかない。中国へ行ってください」と言われ、その言葉に従い、天神さんは中国へ行かれ、そして仏観禅師の教えを学んで帰って来られたのです。

これは、天神さんが亡くなってから約200年後のお話です。

正覚庵では、昭和22年の勤労感謝の日（11月23日）より、使い古された筆記具に感謝して供養する「筆供養」が始まり、毎年この日に供養が行われています。

本堂で法要が営まれた後、山伏や稚児らが青竹で作られた大きな筆みこしを担いで、東福寺の境内を練り歩きます。

その後、住職や山伏の祈祷、ほら貝、太鼓、読経が鳴り響き、筆塚の前で焚かれた大護摩が焚かれます。

その火中に、全国の会社や家庭から奉納された筆や鉛筆など2万本以上もの筆記具が投じられます。

供養されるその煙を浴びると、字が上達するといわれ、学業上達や文運隆昌を祈願する参拝者で境内は賑わいます。

ちょっと肌寒いこの季節、温かいお蕎麦といった、うれしい接待もあります。

さらには、お座敷でお抹茶やお煎茶を楽しむこともできます。

普段は公開されていないお庭や本堂も拝観できるので、ぜひこの機会に訪れることをおすすめします。

本堂の各部屋はさまざまな種類の格天井を配していますので、ぜひ本堂に入られた折には、天井を見上げてみてください。

ちょうどこの時期にはお庭の木々も紅葉し、参拝者の目を楽しませてくれるでしょう。

お庭は東山の斜面を生かした造りになっています。

時には、山から降りてきたタヌキやアライグマがひょっこり姿を現すことも。

東山の地にひっそりと建つ小さなお寺ですが、見どころも多く、ゆっくりとした時間を過ごすことができそうですね。

今日もちょっと京都通。

では、次回もよろしくお願いします。

取材協力：正覚庵
京都市東山区本町15
電話番号：（075）561−8095

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